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君や来し②

「うっわ…」見上げるような門構えの前で、絶句した。
「口を閉じろよ」岩城さんに脇腹を小突かれる。門の中はシンプルな松と竹林と玉砂利の庭園だけど、輝くように掃き清められているし、ほんと人が住んでるのかっていう位の整いっぷりだ。
開け放たれた玄関も時代劇みたいに屏風があって、御影石が敷かれて、一枚板の式台があって…これ、緊張するって!
「いらっしゃいませ、岩城さん。初めまして、香籐さん、萬里小路華乃でございます」高価そうな(としか俺にはわからない)着物をすらりと着こなした美人が微笑んだ。これが流派を取り仕切ってるっていうお姉さんか。「若先生もお忙しい中お時間を取って頂きまして、誠に恐れ入ります」「お忙しいのは岩城さんもでしょう。ドラマのおかげで私どももあれだけよいイメージを広めて頂いたんですもの、ご協力するのは当たり前ですわ。弟は花を揃えておりますの、やりだすと止まらないものでお出迎えしなくてごめんあそばせ。どうぞ」
今日は大島のお対の岩城さんは、痛いほど白い障子が並ぶ磨き抜かれた廊下にしっくり馴染んでみえる。それに引き替え、アルマーニコレツィオーネの白いシャツとチャコールのピンストライプのスーツ(大人しい恰好を岩城さんが選んでくれた)黒の絹の靴下という俺、激しく場違いっぽい…
お姉さんは肩越しに軽く頷くと、膝をついて日がいっぱいに当たる奥の部屋の障子を開けた。
「岩城さんがお見えよ、守衛さん」
「お久しぶりです、若先生」
「あ!申し訳ありません、お出迎えしなくて!」
若々しい声に続いて、部屋の中から立ち現れた着物姿の青年。
「え…っ!」
「か、香籐洋二さん!?」


岩城さんに笑いかけた彼の眼が、俺を認めて茫然と見開かれている。
俺も彼から眼が離せない。
似てる。いや絶対どっか血がつながってるでしょ!あの眼の切れ、眉の秀で方、すっとした鼻筋、高すぎないノーブルな頬骨、あっ骨っぽい優雅な指の感じだって!岩城さんに弟が居て箱入りでポヤーンと育ってたら絶対こうなる。
「守衛さんたら、びっくりし過ぎよ」お姉さんの可笑しそうな声がやんわりとその場の空気を動かした。
「あ、ご、ごめんなさい、は、初めまして、萬里小路守衛と申します」
深々と頭を下げられ、俺も慌てて腰を折る。
「香籐洋二です。今日は俺までお邪魔しまして」
「まあ、私どもの方でお誘いするようお願いしましたのに。さ、お入り遊ばして」
若先生の稽古部屋だというお座敷でお茶をいただいた後、若先生が手本の花を活けて見せ、岩城さんがそれに倣って活け始めた。若先生は隣で見ながら指導をする。俺は隅に引っ込んでこのおいしい光景を堪能した。二人とも花に夢中で俺のことは忘れてるので全然こっちを気にしていない。さっきお茶のときは若先生は初対面の俺に遠慮して殆ど口が利けず、お姉さんの助け舟が無かったら消え入りそうだったというのに、一度鋏を手に水盤に向かったら、その場を圧する気迫が漲って別人のように堂々としていた。岩城さんはその姿を食い入るように観察していて、ほぼ完璧に先生の形を再現して活けているが、言葉少なに教える若先生ににじむ威厳は倍の歳の男のようだ。
「お見事です」「ご指導ありがとうございました」
鋏を置き、岩城さんが手をつく。若先生も座りなおして、手をついた。
「何年かかってもここまで来られる方はなかなかいらっしゃいません。大叔父の命は花そのものでしたから、ここまで会得なさった岩城さんに演じて頂いて、きっと喜んでおります」「若先生…」
お愛想でこういうことを言える人ではない、と初対面の俺にもわかる。こと花に関してはこの人は嘘が言えない人だ。「萬里小路和衛」に成り切ろうと努力を惜しまなかった岩城さんには誰に言われるより嬉しかったのだろう、眼が潤んで、抱き締めたくなるのを堪えるのが大変だった。今日は俺置物だからね。
「若先生!」
スパーンと障子がすっ飛…びはしなかったけど、そういう勢いで開かれた。
眩しい陽を背に仁王立ちしてる、逞しい影。

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2010.10.20 | Comments(0) | Trackback(0) | Harudaki

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